日々、Lost & Found

先日、とある洋食屋さんに入って、オムライスを頼んだ。
そのオムライスにかかっていたデミグラスソースが本当においしく、どうやったらこんな深い味わいが出せるのかとか、軽くソテーした野菜やきのこがソースにのっているのを見て、なるほど、ソースと一緒に煮込まない方が、野菜の色が残せて見た目もいいなとか、いろいろ学びながら食べた。
食事が終わり支払いのときにも、私は食べたばかりのオムライスで頭が一杯だった。
店を出た瞬間、ふと不思議な感覚に襲われたが、私はそれを見過ごした。


そのあと、買わなければいけないものがあったので、私は目当ての店へと向かった。
その途中、先ほどの感覚がふと蘇った。
小さな小さな喪失感。
そういえば、今日、出掛けたときからずっと肩にあった重みが消えている……!
…………カメラがない。


私は人混みも顧みずにひとり立ち止まり、呆然とした。
カメラは一眼デジカメだった。
私にとっては、高価なもの。
それだけではない。
そのカメラには、その日のロケハンで撮った大事な写真が山ほど入っていた。


どこでなくしたのか、一瞬あまりの混乱にわからなくなったが、洋食屋さんを出たときにかすめた感覚を思い出し、その店へ戻ってみることにした。
店を出てからけっこう時間も経っていたこともあり、心配だった。
もしなかったら、どうしよう。


駆け足で洋食屋さんに戻る間、『Lost & Found』のことを考えた。
『Lost & Found』では、持ち主の手を離れたデジカメのエピソードが出てくるが、普通は逆だよなぁ…と思う。
自分の落とし物体験を脚本に活かすならまだしも、自分で書いたことがそのまま自分に降りかかってくるなんて…。
あのカメラの中身を他人に見られたら、どう思われるんだろう。
「撮影で使うロケーションの候補を写真に撮ってたんです」
と言えば、どうってことない写真だけど、何の説明もなかったら、けっこう不思議な写真たちだ。


でも、こういうことって、よくある。
物語として書いたことが、自分の現実に起こること。
そして、それはいいエピソードではなく、大抵悪い出来事の方が多い。
こういうとき、私は、何か戒めのようなものを感じる。
簡単に物語を書いてはいけない。
本当にそれは、書かれるべきことか。


デジカメのことだけではない。
『Lost & Found』では、主人公に深刻な影も背負わせてしまったが、その本当の気持ちを理解したのは、映画が完成し、完成披露の上映が終わったあとのこと。
一気に景気が後退した世界的不況のあおりが、私の所属する小さな会社にも押し寄せたときだった。
身近なところでも、『Lost & Found』の主人公の経験したことが、本当にそのまま現実となってしまった人もいる。
人がどん底に落ちたり、死んでしまったり、書くのは簡単にできるけれど、それを書くには相応の覚悟と責任があることを、今は実感している。


さて、私のなくしたカメラの話ですが。
物語と同じく、無事に手元に戻ってきました。
よかったです…。




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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆六本木シネマートにて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:郄橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp