フラワー長井線との出会い


出会いは、時によっては、人生をも左右する大きなものになりうる可能性がありますが……。
この映画にとって、山形県を走るフラワー長井線との出会いも、なくてはならないものでした。
新幹線の停車駅、赤湯(あかゆ)駅〜終点、荒砥(あらと)駅までをつなぐ、1時間に1本しかないような田舎のローカル線。
この路線の駅の佇まいや風景が、映画の情緒を引き出すことに、一役も二役も買ってくれたことは、言うまでもありません。


実は言うと、『Lost & Found』脚本の第一稿では、舞台は東京でした。
都内の駅での朝夕のラッシュ、溢れかえる人混み、喧噪、殺伐とした空気、そんな中にある<落とし物あずかり所>がひとつのオアシスのような存在になっているイメージで書き進めていきました。
ところが、いざ、東京近郊の鉄道会社数社に、ロケ協力を求めると、あるときは、あっさり、あるときは、迷惑そうな顔で、スパンスパンと断られていきました。
駅が舞台という設定に決めたときに、ロケ地を探すのに一苦労しそうだと、そういう覚悟はできていたつもりですが、このまま、どこも協力してくれなかったらどうしよう…と、不安はつのります。
と、朗報が舞い込んできました。
ラインプロデューサーの方が、協力してくれる鉄道会社を見つけてきてくれたのです。
その名も、フラワー長井線
……フラワー???
一瞬、ひるみました。(山形鉄道の方、ゴメンナサイ!)
場所は、東北、山形県
とっても田舎で、とっても雪深いローカル線。
脚本の中に書いた駅のイメージがガラガラと崩れ落ちていきました。


けれども、それなら!
早速、シナリオハンティングに、そのフラワー長井線を見に行きました。
予想以上に、寒く静かな光景がそこにはありました。
殺伐とした雰囲気? そんなの微塵もありません。
当初のイメージであるオアシスのような存在の<落とし物あずかり所>は、こんなに周囲が穏やかな環境である以上、無理な話です。
そこで、この路線が丸ごと、東京からやって来たひとが自然と流れ着くような、時の止まったような不思議な空間に見せ、その中心に位置するのが<落とし物あずかり所>であることにすれば……
そんな新たなイメージが湧いてきました。


フラワー長井線を運営する山形鉄道の方とも、たくさんお話をしました。
これがまた!本当にびっくりするほどよい方ばかりなんです。
しかも、このフラワー長井線、年々利用者が減ってきて、経営の危機にも陥っているという…。
そして、映画に協力することが、少しでもいい効果を生むのではないかという鉄道会社側の淡い期待も勝手に感じて(あくまでも、勝手にです)、徹底的にフラワー長井線を出すことに決めました。
だから、映画の中でのセリフやアナウンスには、全て実在の駅名を採用しています。
そんなことをしても、小さな小さな映画なので、フラワー長井線に貢献できるとは思っていませんが、この素敵な路線の雰囲気が少しでも映画を通して伝わるといいな、そう願っています。


この映画、オール山形ロケ、なんてたまに謳われていますが、本来なら、「オールフラワー長井線ロケ」とも言えるくらい、お世話になりました。
<落とし物あずかり所>のセットも、フラワー長井線の「羽前成田駅」を間借りして作っています。
いろんなところで書いていただいたレビューにも、物語を彩る情景に触れているものがたくさんあります。
その情景とは、フラワー長井線との出会いで生まれたものでした。
そして、言うまでもなく物語も。
この土地の柔らかな光や澄んだ空気、のんびりと温かい人々から、たくさんのインスピレーションを受けて、形となったのでした。


☆☆☆

3週間の予定で公開が始まった<世界が愛した才能>シリーズも、いよいよ楽日を迎えます。
明日(3/18)は、『ロックアウト』最終日。
そして、明後日(3/19)は、『Lost & Found』最終日です。
劇場でお会いできるのを楽しみにしております。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp