ピエロ落札


映画の冒頭、最初に登場する誰かの落とし物は、ピエロのキーホルダーだった。
しかし、撮影用小道具として探そうとすると、これがなかなか見つからない。
小道具に対して、きちんとしたスタッフがいればよかったのだが、低予算映画なので、制作の方が小道具も担当していた。
そして、ピエロがどうしても見つからないので、クマなどの代替のキーホルダーをいろいろと用意してもらって、どれがいいかと見せてもらった。
ただでさえ、過酷なスケジュールで動いているので、見つからないのは仕方のないこと。
ピエロひとつに時間を割くわけにいかないのだった。
でも、私はどうしてもピエロにこだわりたかった。
『Lost & Found』では、登場人物のひとりである盲目の女性の周辺に、ファンタジーの要素が入り込んでいる。
その象徴として、最初にピエロから始めたかった。
しかしそれを言い出し困らせるのは、わがままであるような気もした。


だから、脚本を書き終わって時間に余裕があった私が、もう一度探すことにした。
ピエロのキーホルダーなんて、すぐ見つかりそうなものだが、実際に探すと本当になかった。
今から誰かに作ってもらう時間もなかった。
そして、監督・スタッフはロケ地の山形へと旅立った。
東京に残っていた私は、ピエロが必要なシーンの撮影日とにらめっこしながら、まだ諦めずにいた。
そして、ついに見つけたのである。
まさに、イメージどおり!というピエロのキーホルダーが、インターネットオークションに出ていたのだ。
そして、まだ誰も入札していない。
でも……
出品終了までの時間は、まだ随分とあった。
それを待っていたら、撮影に間に合わない。
私はとりあえず入札し、出品者にどうしてもこのピエロが必要なことを伝え、出品を今すぐ終了してほしいとお願いした。
出品者から返事はすぐに返ってきて、すでにピエロを落札扱いにし、送付準備に入ったという。
……このすばやい対応に本当に助けられた。
山形では、着々と撮影が進んでいる。
届いたピエロをすぐさま、山形へと転送した。
そして、無事にピエロは映画に出演できたのである。


このピエロがイメージどおりだと強く思ったのが、手にアコーディオンを持っていることだった。
そのあとに出てくる、ファンタジーのような幻想シーンでアコーディオン奏者が大事な役割をしているので、その布石のような存在に…というのは、制作者側の勝手な思いであって、実際にそれを意識して観てもらうのは難しいと承知しておりますが……


心残りがひとつ。
私は、オークションというものを利用したのが、そのときが初めてで、勝手がよくわからず、最低価格で入札してしまったのです。
その価格、確か、100円以下でした。
最低価格で入札しておいて、出品をもうやめろなんて、よくもそんなぶしつけなことが言えたもんだ…と、今でも恥ずかしくなります。
その時は、とにかく切羽詰まっていて、気がまわらなかったんですよね…、と言い訳にもなりませんが。
それなのに、出品者の方は、そのことには一切触れずに、すぐにピエロを送ってくださいました。
見知らぬ方のご親切に、本当に心から感謝しています。


念のための補足です(笑)
写真のピエロは、撮影用に“汚し”を施していて、届いたピエロは新品のきれいなものでした!



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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp