日々、Lost & Found ・その2

「日々、Lost & Found」というタイトルで、カメラをなくしてしまった話を書いたことがありましたが…
今日は、自分のことではありません。
(私も、そんなにしょっちゅうlostしているわけではありませんので…笑)

昨日、新宿で長い下りエスカレーターに乗ったときのこと。
ふとその先、ちょうどエスカレーターを降りる場所あたりに、ひとりの外国人男性の方がいらっしゃった。
スキンヘッドで、サングラスを頭のてっぺんにのせている。
そんな彼を、エスカレーターの上から見下ろす格好になった私。
想像の中で、サングラスが目となり、ピカピカの頭の上にマジックでもうひとつの顔を描いた様子が思わず浮かんでしまって、顔がにやけてしまったのだが、よく見ると、彼の表情はとんでもなく強張っていた。
顔面蒼白、という表現が大げさでない表情だった。
例えば、彼の様子を脚本で表現するとこんな感じ。


○新宿・とあるエスカレーター前
エスカレーターを降りた外国人男性(ジョエル)の足がふと止まる。
慌てて今乗ってきた下りエスカレーターを振り返るジョエル。
滞りなく動いているエスカレーター。ひとりの女性(←私)が乗って降りてくるのが見える。
ジョエルはまず、ポケットにゆっくりと手を当て確認し、そこが空っぽなのがわかると、全身のポケットを隈無くバンバンと叩き始める。表情は、みるみるうちに青ざめていく。
首を無意味に左右に振り、身動きとれないような様子を見せるジョエル。やがて手を目の前に広げ、その手のひらを呆然と眺める。
エスカレーターから降りてきた女性が、自分を凝視しているのに気がつき、我に返ったようにその場を立ち去る。


・・・何をなくしてしまったのだろう。
彼と強く目が合ってしまった私は、すごく気になった。
こんなふうに、誰かの何かをなくしてしまったことに気がつく瞬間に遭遇し、その表情を不躾にも凝視してしまい、その手から知らぬ間に滑り落ちたかのように、手のひらを見つめる彼を見て、ひとって本当にこんなリアクションをするんだ…と改めて思った。
「手を目の前に広げ、その手のひらを呆然と眺める」なんて、そんな典型的なアクションを実際の脚本で書くのは、けっこう勇気がいるが、彼のその様子は、まるでひとつの芝居を見ているようだった。動揺がじかに伝わってきた。


前日の『Lost & Found』の上映後に、監督に声をかけてくれた観客の方がいた。
「今日は、Lost & Foundみたいな日だったんです。だから、観るべくして観た映画だと思いました」
この話を監督から聞き、とても素敵な感想だなと思った。
その方に何があったのかはわからないが、自分の持っている経験に映画が触れて、少し立ち止まるというか、ふと考えるきっかけになれるのは、この上なくうれしい。


遭遇した外国人の方に、思わず『Lost & Found』のチラシを渡しそうに……は、さすがになりませんでしたが、『Lost & Found』の中の日記をなくした外国人に、その姿を重ねてしまったことは、言うまでもありません。
ちなみに、役名は、「ジョエル」と言います。映画の中でその名が出てくることはありませんが…。


■■□■□□□■□■□□□■□■□□□■□■□□□■□■□□□■□■□□□■■□■□□■■□■□□■■□■□□

映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆シネマート六本木にて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:高橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp