落とし物ナンバーワンの称号

“駅での落とし物ナンバーワンはなんでしょう?”
そう訊かれたら、大抵のひとは正解を出せるのではないだろうか。


答え:傘


自分において考えても、傘は、人生のうちでたぶん10本以上は、なくしている。
何本なくしたのかも憶えていない、傘ってそんな存在。
どうせなくすから、ビニール傘しか使わないという友人も周囲にけっこういる。


以前、大型スーパーで、傘の安売りをしている光景を見かけた。
安い〜!しかも品揃え豊富〜!
・・・でも、なんか変。
そう思ったのは、売っている傘がどれも一点ものだったからだ。
よく見ると、横の看板にこう説明されている。
「これらの傘は、駅の忘れ物の傘です。落とし主が一定期間現れなかったため、販売しております」
正確にはどのように書いてあったか忘れてしまったが、とにかくこんな内容の文章が添えられていた。
え?売るの!?
と、一瞬思ったが、確かに処分するよりもいいことだ。
きっと、売上金も、有効に活用されるはずだし。
でも、その傘たちを見て思った。
どれも新品のようにきれいで、どこも不具合がないのにも関わらず、持ち主が取りに来なかった傘たち。
駅や電車で忘れた場合、ほんのちょっと探す気持ちがあれば、わりと簡単に手に戻るのに。
それをしない持ち主がこんなにたくさんいるんだ。
もちろん、自分も含めて。
聞きかじりの数字だけれど、忘れ去られた傘が持ち主に戻る率は0.5%にも満たないと聞いたことがある。
雨の日は重宝するのに、晴れた途端に忘れ去られる傘。
多くのひとにとって、傘って都合よく扱われている。


売られている傘たちを目の前に、ちょっと思うところがあったくせに、私は、その後も相変わらず傘をなくし続けた。
こんな私が、ここ3年ほど、同じ傘をずっと使っている。
それがプレゼントされた傘だからだ。
傘をいただいたとき、正直、ちょっとひるんだ。
・・・絶対いつかなくしてしまう。
それからというもの、傘を持って出るときは、緊張するようになった。
電車でも、手すりにかけるのをやめ手放さずにいる。
何度か、居酒屋さんやレストランに忘れたことがあったけれど、すぐに気がつきちゃんと取りに行った。
表面の撥水加工はとれ、だんだんくたびれていく傘だけど、その様子に愛着を増している今日この頃である。



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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆六本木シネマートにて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:郄橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp