なくしてしまった日記

アメリカで日記をなくしたことがある。
初めての海外での生活で、どうしたってがんばらなければいけない状況を、克明に綴った日記だった。
帰国日が迫っていたある日、どこへ行くにも持っていて、空いた時間があれば書きつけていたノートを、撮影で使っていたスタジオに置き忘れていることに気がついた。
急いで取りに戻って探したが、それはどこにもなかった。
スタジオの受付に行き、ノートが届いてないか確認するも、すぐに「ないわ」と返ってくる。
「リングで綴じているタイプのノートで、表紙は、小さい青い花が描かれていて、これぐらいの大きさで、少し使い込んだ感じ…」
ないと言われているのに、たどたどしい英語で一生懸命説明する私に同情を寄せ、受付のお姉さんとお兄さんは、「あったらここであずかっておくよ。来週もここに来るだろう?」とスタジオの予約表を見て微笑んだ。
「ありがとう」
強張った表情をどうにかゆるめてその場を後にしたが、私は次の予約日まで待てずに、再度問い合わせに行く。
「届いてない?」
「残念だけど…」と受付の人は首を横に振る。

私には、はっきりとスタジオのピアノの上に置き忘れたという記憶があった。しかし取りに戻ったときに、ノートは忽然と消えていた。受付にも届いていない。
誰かが持ち去ったのだろうか。
日記は、英語で書いていた。
・・・せめて、日本語で書いておけば!と、やや的外れな後悔を胸に、それが誰かに読まれたときのことを想像していた。
最初のページ、アメリカに着いたばかりの心境から始まって、帰国を控えた今の気持ち。
英語のライティングスキルが上がっていくのも見てとれるし、心に余裕が出てくる過程も生々しく伝わるだろう。
見知らぬ誰かに、胸の内を覗かれてしまった気分だった。

結局、日記は私の手に戻ってこなかった。
帰国の直前、スタジオに行き、撮影でお世話になったお礼を言った。
日記が届いていないかの確認はもうしなかった。届いていたら、真っ先に教えてくれるはずだし、ネガティブな会話で最後を終わらせるのは、何となく気が引けたからだ。


消えてしまった日記のことは、今でも時折考える。
「I have lost my diary...」
あれから数年後、映画の登場人物に同じセリフを言わせるとは。


映画の中で描いた日記のエピソード、観客のみなさんにはどう伝わるのでしょうか。


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映画『Lost & Found』

監督:三宅伸行

脚本:荒井真紀/三宅伸行

撮影監督:八重樫肇春

キャスト:菅田俊坂田雅彦、畑中智行、寉岡萌希藤井かほり菜葉菜、ひもの屋カレイ、三田村賢二、菅原瑞貴、永井穂花、ジリ・ヴァンソン、田中優

☆六本木シネマートにて公開決定 ※映画『ロックアウト』(監督:郄橋康進)との日替上映になります。

詳しくは下記サイトへ

http://www.gr-movie.jp